2023年1月、ローム株式会社の超低消費電流技術「Nano EnergyTM」搭載電源ICと、当社のセラミックパッケージ型全固体電池を使用した低消費電流の評価用電源モジュールキットを共同開発しました。当製品により、お客様が全固体電池の使用を検討するにあたり、容易に評価することができます。発表後は多くのお客様から問い合わせをいただいており、全固体電池の実装に向けた大きな一歩を踏み出しています。
ROHM Semiconductor (Shanghai) Co., Ltd.
深圳駐在 FAE本部
Technical Director
梅本 清貴 様
本プロジェクトの主担当。
2023年5月より中国深圳に出向中。
ローム株式会社
LSI 事業本部 電源LSI 事業担当
パワーステージ商品開発部
HV電源商品設計課
HV電源商品設計グループ
スペシャリスト
永里 政嗣 様
超低消費電流技術「Nano EnergyTM」の開発に携わる。
マクセル株式会社
新事業統括本部
担当本部長
山田 將之
リチウムイオン電池担当時代から新しい電池の開発に着手し、本プロジェクトに参画。
マクセル株式会社
新事業統括本部
製品開発部 材料課
技師
古川 一揮
セラミックパッケージ型全固体電池の開発を担当。
山田:梅本様とは10年前からのお付き合いとなります。その頃から、当社は全固体電池のほか、水溶液系二次電池、体や環境に無害な材料で構成された電池など、リチウムイオン電池に代わるさまざまな電池の開発に取り組んできましたが、新しい電池を開発しても充電周りの装置が整っていないとお客様に受け入れられない、という課題がありました。
梅本:当社とマクセル様の共通の悩みとして、電源IC、電池それぞれ製品単体では魅力が伝わらない、市場へのアピールに欠けるということがあります。そこで10年前に水溶液系の二次電池の開発でコラボレーションが始まり、今回、ついにマクセル様の高性能な全固体電池と、当社の高性能で電流消費の少ない電源ICを搭載した評価用電源モジュールキットを製品化できました。
永里:私はもともと、電池に特化した超低消費電流技術「Nano EnergyTM」を搭載したICの設計に携わっていましたが、これも単体ではお客様にアピールすることが難しいと感じていました。梅本さんから全個体電池のプロジェクトの話を聞き、一緒にやらせていただくことになって、「Nano EnergyTM」の特徴も活かすことのできる非常によいコラボレーションになったと感じています。
古川:私はセラミックパッケージ型全固体電池の設計をメインで担当しており、本プロジェクトには製品設計初期の4年程前から参加しています。
梅本:お客様が新しい電池の搭載を検討するには、その電池の仕様を踏まえた設計を考え、IC部品を取り寄せる必要があり、それには数カ月を要し、設計コストもかかります。この評価モジュールを使えば、全固体電池の使用を検討されている機器とすぐにつなげて、動作確認することができます。電圧、適用温度範囲、電力消費量など、全固体電池にして変化すること、変化しないことが明確にわかり、リチウムイオン電池など既存の電池と容易に比較評価できます。
山田:従来の電池は円筒形やコイン形ですが、世界で初めてこのような形の電池を開発したので、このままお客様に渡しても簡単に評価ができません。ローム様と作成した全固体電池搭載のこの評価基板は、外部接続も容易に可能なため、お客様先でもストレスなく開発に役立てていただけるようになりました。
永里:今回のコラボレーションで使用されているロームの電源ICは、「コイン電池で10年以上駆動」をターゲットに開発された超低消費電流技術を搭載しています。電源の重要特性である応答性能を損なわずに低消費電流も実現するために、低消費と応答性が最もバランスのよい動作電流を導きだすまでは苦労しましたが、(古川さんをはじめとする)マクセル様のエンジニアの方々と協力して取り組み、全固体電池の放電性能を十分に引き出し、電池寿命を最大化することができました。加えて、本技術では非常に小さい基板スペースに充電制御ICと電源システムを収めることができるため、マクセル様の全固体電池が持つ小型という特徴を損なうことがありません。
山田:当社はこれまで乾電池を含め、電池の売り切りというビジネスをやってきたので、お客様視点で製品サンプルを提供して話を進めるという考え方が欠けていた部分がありました。ローム様とコラボし、製品サンプルを提供することでお客様の理解が進み、ビジネスの進展が速くなったことは、とても参考になりました。
梅本:半導体業界の開発サイクルは2~3年が多いですが、10年という長い開発スパンの電池ビジネスに携われたことは、視野も仕事の幅も広がる機会となりました。本件は当社の中では長く続いている協業プロジェクトとなっており、今後も継続していきたいと思っています。マクセル様のさらなる技術開発に期待しています。
古川:全固体電池は安全・安心で、将来的には様々な製品のバッテリーを置き換える可能性を秘めています。また、現在は複数セルの直列電池(バイポーラ型電池)の開発にも注力しています。リチウムイオン電池では、電池内部で直列接続しようとすると電解液が複数のセル間にまたがり正常に反応しなくなりますが、全固体電池はそれが起こらないので、電池1つで大きな出力を取ることができ、さまざまな機器の主電源として活用が見込まれます。さらに、これまで一次電池が使われていた市場を対称に開拓してきましたが、耐熱性をさらに高められるよう開発し、今後は電池が利用されていない市場も併せて開拓していきます。
永里:全固体電池の有効性を拡大するには、エナジーハーベスティングのように、光や振動の微小なエネルギーでも使用できるソリューションが必要です。太陽光や室内照明で発電した電気を全固体電池に充電できるソリューションを構築し、2023年7月に新たな評価用モジュールキットも開発しました。両社で全固体電池の市場拡大につながる活動を続けていきたいと考えています。
山田:全固体電池は、低消費電力に対応でき、耐熱性、広い温度範囲、長寿命という特性があります。これらを活かせる用途で、社会課題の解決に貢献していきます。労働人口が減少する中、メンテナンスの手間を削減できるように、当社は長寿命の電池、ローム様は低消費電力で長持ちさせるという考え方で、ともに取り組んでいきたいと思います。