株式会社SUBARU様は、群馬県で新車両工場の建設を進めています。工場のスマート化を検討するなか、マクセルの全固体電池の耐環境性、広い放電温度範囲、長寿命、安全性に着目いただきました。現在、FAロボットのバックアップ用電源への全固体電池モジュール(SBM)搭載をめざすとともに、当社の技術者がSUBARU様へ出向し、さらなる課題解決に取り組んでいます。
マクセル株式会社
新事業統括本部 開発部
担当部長
瀬尾 欣穂
新事業統括本部の技術部門を率いる。2025年4月よりSUBARU様へ出向。
マクセル株式会社
新事業統括本部 開発部
技師
金 日国
2023年から当プロジェクトに参画、SBMの設計を担当。
株式会社SUBARU
モノづくり本部
新工場プロジェクト推進室
室長
土屋 貴雅 様
大泉新工場の立ち上げに向けて、スマート化への取り組みを推進。
株式会社SUBARU
モノづくり本部
新工場プロジェクト推進室
主査
大庭 卓 様
工場内のDX推進を担当するなかで、新工場プロジェクトに参画。
瀬尾当社は、長寿命で高い安全性を持ち、幅広い温度環境で使用できる高出力型のコイン形全固体電池を2021年に発表し、そのリリースをきっかけにSUBARU様からお声掛けいただきました。
土屋当社は群馬県にある大泉工場に隣接した60万平米の土地に、新たな新車両工場建設を計画しています。そこでスマートファクトリーとするためのアイテムを検討していたなかで、マクセル様の全固体電池に関心を持ちました。現在、工場ではFAロボットなどに多くのバックアップ用電池が使われていますが、一次電池のため1年程で寿命がきて廃棄となります。全固体電池を使えば寿命は10年程に延びるので廃棄を大幅に削減でき、環境保全や取り換え工数の削減に大きく貢献できます。
金既存のFAロボットのバックアップ用に使われているER(塩化チオニルリチウム)電池に代えて、SBMを搭載します。SUBARU様の工場で実証実験を進めており、2025年8月に最終仕様のSBMを搭載した試験を無事終えることができました。これから当社でSBMの量産検討を開始していきます。
土屋群馬県の工場の冬は寒く、–10℃~–15℃になることがあります。一方、製造工程によっては+120℃と高温になるのですが、この厳しい使用環境に合わせて全固体電池をチューニングしていただいています。
瀬尾SUBARU様が求められる仕様に適合する製品とするため、設計、評価・検証を繰り返し、さまざまな課題をクリアしてきました。使用される環境は想定より非常に厳しいものでしたが、約2年をかけて原理試作から性能試作、量産試作へと計画通り進んでいます。
金特に難しかったのは、厳しい環境でSBMの性能・信頼性・安全性を確保しながら、既存ロボットの限られた空間に取り付けられるように小型化することでした。完成したSBMが充電電源を供給できるように製造メーカーで改造していただいています。
土屋当社の要望に合致した規格になっています。改めて、燃えない電池というのは画期的です。工場における安全性の向上につながりますし、工場だけでなく人々の生活に広く貢献する製品だと思います。
大庭今後はリサイクル性の改善にも期待しています。
金当社の全固体電池は金属とセラミックのみでできているので、リサイクル性が非常に高いです。また燃えるリスクがないので梱包や輸送の効率化を図ることによる物流コストの低減にもつながります。回収から再利用までの仕組みづくりが課題ですね。
土屋自動車工場には塗装や組立、溶接といったさまざまな工程があり、各工程が一般にイメージする1つの会社ほどの大規模なものになります。従って、これからの自動車製造においては、ともすればバラバラになりがちな各工程を1つの思想のもとDXでつないでいくことが不可欠です。そこで、細かい情報をデータとして収集して活用していくために、さまざまな環境で使える小型電池がこれまで以上に必要になってきます。
マクセル様の、他に類を見ない顧客に合わせたソリューション提案力を深化していただき、お互い成長していけることを期待しています。例えば、今後全固体電池が大型化されると、無人搬送車(AGV)や自律走行搬送ロボット(AMR)など適用範囲もさらに広がります。
瀬尾大型化については、SUBARU様のなかで全固体電池の効果を発揮できる部分を探し、当社の強みを活かせる範囲でめざしていきたいと考えています。そのほか、電池とセンサを組み合わせたアプリケーションなど、お困りごとにフィットする提案を続けていきます。
SUBARU様に出向して、自動車の設計思想やモノづくりの考え方に触れ、「お客様の課題を一緒に考える」ことの奥深さを改めて感じています。お困りごとに対して、どのように困られているのかが理解できれば、SUBARU様の武器になる提案ができます。また、新工場のDXへの取り組みに関わるなかでは、人を中心とした考えをされるところにマクセルとの共通点も感じました。
大庭 私も工場の人間なので、DX推進はデジタルありきではなく、業務をどうより良く、人にやさしく改善していくかだと考えています。人が身に付けたノウハウを活かす、という観点から工場の価値向上を図っており、周りからは泥臭いと言われますが、それが我々の強みです。
土屋DXはあくまで手段であり、人を中心として考えるところは、マクセル様と目線が合っています。このような企業の枠を越えた技術、組織、人の連携を通じて、社会に価値を生み出しながら、日本のモノづくりの底上げにも貢献していきたいと思います。