社長 × アナリスト鼎談
ポートフォリオ改革の進捗と課題
2025年7月、ニッセイアセットマネジメント株式会社の中山氏、SMBC日興証券株式会社の渡邉氏と、当社 社長の中村による鼎談を行い、これまでの5年間のポートフォリオ改革の振り返りと今後の成長に向けた取り組みについて、意見を交わしました。
過去5年間のポートフォリオ改革について

中山
私がマクセルに関心を持った理由としては、「サプライズが少ない市場で、高シェアで安定的に売上・利益を稼ぐ製品ポートフォリオがあること」「光学製品、電池製品でナンバーワンのシェアがあること」「安定的な市場を持つ一次電池で高いプレゼンスがあり、TPMS(タイヤ空気圧監視システム)のセンサ用マイクロ電池などで高シェア、高収益を生み出し、さらに次の新たな領域における潜在的な成長性があること」が挙げられます。
マクセルのBtoC事業における収益の拡大は一時的なブームに乗ったものと見ていたので、経営資源の配分をどうされるのかを注目していました。最終的に撤退という経営判断に至った経緯を振り返ると、何が問題だったと考えますか。
マクセルのBtoC事業における収益の拡大は一時的なブームに乗ったものと見ていたので、経営資源の配分をどうされるのかを注目していました。最終的に撤退という経営判断に至った経緯を振り返ると、何が問題だったと考えますか。
中村
BtoC事業の改革は2022年から2023年にかけて実施しました。2000年代以降、海外企業のBtoC製品の競争力が高まり、性能だけで差別化することが難しく、今や日本国内のBtoC事業は、製品性能よりも流通への供給力で優劣が決まってしまう環境になっています。そのようななか、コロナ禍において2020年に除菌消臭器の販売が拡大し、健康製品に対するマーケットの関心が非常に高かったことから、もう一花を咲かせたいという思いで、さらに付加価値の高い製品の開発に挑戦しました。チャンスがあると考えたのですが、結果的にコスト対応が厳しく、ベストオーナーに移譲するスキームに切り替えました。もう少し早いタイミングで経営判断すべきだったと反省しています。
中山
「構造改革」を口にされる会社は多くありますが、本質的な改革がなされず、結果的に数年後、再び損失を計上して構造改革を迫られるケースがあります。マクセルは以下の点で構造改革をやり切ったと評価しています。
・ABC-XYZオペレーション(事業別損益管理)のもと、ポートフォリオ改革を順次実行
・BtoC事業に続いて、角形リチウムイオン電池事業からの撤退を決断
・プロジェクター事業については早期に経営判断し、現在はパテントにより収益を獲得
引き続き、ABC-XYZの規律のもとでタイムリーに改革への取り組みが実行されると、ポートフォリオ改革が会社に根付いていると評価されるようになると思います。
・ABC-XYZオペレーション(事業別損益管理)のもと、ポートフォリオ改革を順次実行
・BtoC事業に続いて、角形リチウムイオン電池事業からの撤退を決断
・プロジェクター事業については早期に経営判断し、現在はパテントにより収益を獲得
引き続き、ABC-XYZの規律のもとでタイムリーに改革への取り組みが実行されると、ポートフォリオ改革が会社に根付いていると評価されるようになると思います。
中村
角形リチウムイオン電池事業は、営業利益や資本効率は低かった一方、一定の売上があって固定費をカバーしていましたが、中長期的には軸足を入れ替えて新しいモノにつないでいく必要があり、全固体電池へのシフトにある程度目処が立ったことから、2024年度に撤退を決めました。
今後の成長に向けた課題と期待
渡邉
一方で、成長の種まきと会社全体の利益のバランスを見ると、利益に寄り過ぎているように感じます。すべての種が高収益・高成長につながることはないので、より多くの種をまく必要があると思います。構造改革を進めながら種をまくのは難しいことですが、全固体電池が仮に想定通りにいかなかった場合でも、それに代わるものが複数あるポートフォリオが望ましいです。

中村
まさにマクセルの成長にとって大切なポイントです。当社は2014年に再上場し、M&Aにより成長する戦略を進めましたが、一気にやりすぎた苦い経験もあり、私が社長に就任した際は、自力で技術開発から立ち上げる必要性を強く感じていました。そこで前中期経営計画MEX23をスタートした2021年に、4事業本部ごとに本部内のリソースで実施していた新製品・新事業の開発を新事業統括本部に統合し、新しい事業の立ち上げに向けた体制を強化しました。
現在、全固体電池が立ち上がろうとしており、さらにほかにも成長を期待できる種が多くあり、しっかりリソースを投じて、組織的に製品化を進めていこうとしています。
現在、全固体電池が立ち上がろうとしており、さらにほかにも成長を期待できる種が多くあり、しっかりリソースを投じて、組織的に製品化を進めていこうとしています。
報告セグメントを変更し、アナログコア事業群の成⻑にリソースを集中
エネルギー、機能性部材料、光学・システムを重点的に伸ばしていくべき事業群(=アナログコア事業群)と定義し、経営リソースの集中、積極的に成長投資し、さらにはM&Aによる成長機会も探索し、事業成長を加速させる

渡邉
ポートフォリオ改革を進め、利益率を高めていくことが重要です。利益の一定割合を、研究開発費へ配分して種まきをして、あとは開発の勝率を上げるべく粛々と仕組みを作ることが良いと思います。
中山
各部門で行っていた新事業の開発機能を集約し、全体的に最適化を図ろうとしており、その流れは素晴らしいと評価しています。気になるのは、全固体電池にリソースを投じている一方で、開発の初期段階にあるものへの種まきが少しおろそかになっていないかということです。また、課題であるマーケティング、販売、営業力に対して、リソースを集中して組織体系や仕組みを変えていくことも重要です。
中村
全固体電池は、まだ少量ですが量産機での生産が始まり、事業セグメントへ移行するフェーズになっています。それに続いて、EMC対策部材*や発泡成形などが事業化の一歩二歩手前の段階まできており、リソースを増やして開発を進めています。
2025年度からは、新たな技術開発における顧客開拓は新事業統括本部の中のマーケティング部隊が担い、徹底してお客様の困りごとを吸い上げる体制に変更しました。今後、活動を強化していくとともに、商社などとの連携も検討し、取り組みを加速していきたいと考えています。
*EMC:Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)
2025年度からは、新たな技術開発における顧客開拓は新事業統括本部の中のマーケティング部隊が担い、徹底してお客様の困りごとを吸い上げる体制に変更しました。今後、活動を強化していくとともに、商社などとの連携も検討し、取り組みを加速していきたいと考えています。
*EMC:Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)
中山
日本の技術オリエンテッドな企業の多くが抱えている悩みであり、解決するのは簡単なことではないと思いますが、解決できると株式市場からの評価が劇的に変わる可能性があります。今後に向けて、社内での議論が進むことを期待しています。
渡邉
マクセルの工場を訪問した際に、やはりマイクロ電池が強いと再認識しました。長年にわたり絶対に液漏れしないように厳しい環境下で取り組んできたことが、医療機器市場にもマッチしました。強いプロダクツでお客様のニーズを引き出すことが、拡大への最初のフェーズになると思います。

中村
電池事業のマーケティングや営業は、グローバル規模で強化中です。幅広くニーズを拾ってくる必要があり、最前線の営業部門にはその意識を強く持ってほしいと考えています。電池に専念すると、電池ビジネスは深堀りすることはできますが、面の広がりが出てこないため、改善に向けて新たな仕組みづくりを進めています。すぐに大きな成果が出ることではありませんが、新事業統括本部で新しい顧客や製品の探索を加速していきます。
中山
お客様の潜在ニーズに踏み込んでいく取り組みが進んでいると思いますが、実際はいかがでしょうか。
中村
新事業統括本部でのマーケティングや技術開発においては、フェーズゲートを設け、お客様から有償でもサンプルが欲しいとご依頼いただけることを条件としており、発泡成形やEMC対策部材はお客様にサンプルを有償で提供できています。また、その段階までは達していない製品についても次のゲートに進めるべくマーケティング活動を強化しています。
渡邉
日本は今後5~10年で人財が不足してくるのは目に見えており、海外人財の採用や、企業同士が友好的にリソースを活用していかないと運営が難しくなると思います。外部の人財を取り込むペースを上げる必要があるのではないでしょうか。
中村
マクセルは平均年齢が高いこともあり、非常に大事なポイントと認識しています。事業継承の問題から、力のある中小規模の企業のM&A案件もあり、マクセルのコア技術とのシナジーを創出できる企業があれば積極的に検討したいと考えています。
渡邉
村田製作所様からの事業譲受は、業界のリソースが集約される観点で非常に良かったと思います。
中村
今回の中期経営計画を策定する際に、全セグメントでM&Aのアイデアを出しましたが、その中で最も親和性が高いものでした。最終の電池製品は同じように見えて、製造方法や材料、設備も、バックグラウンドの技術も違いますので、お互いの強みを活かして製品設計、設備設計を含めて幅広く、大きなシナジーを創出できると期待しています。
中山
ところで、PBRが1倍を下回る状態が続いていますが、社内ではどのように認識されていますか。
中村
資本効率を意識した経営を打ち出していますが、成長性、収益性を含めてボラティリティがあることや、今後の成長に向けた全固体電池などの新たな製品の業績への貢献はこれからという状況であることが、株価が上昇しない大きな要因と捉えています。中期経営計画の目標をしっかり達成し、全固体電池について、より具体的な事業拡大に向けた取り組みをお伝えできるようになれば、株式市場からの信用、期待が高まり、株価もついてくると考えています。
本日は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。
本日は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。
2025年6月に発表された株式会社村田製作所様からの小型一次電池事業の譲受は、マクセルが強みを持つ事業を自社で拡張するだけではなく、競合相手を取り込んでビジネスを拡大し、必要な人財も獲得できる意味で素晴らしい成果だと思います。