社長メッセージ

MVVSSの浸透、組織改革を通じてワンマクセルへ
私が社長に就任した2020年当初、マクセルは2017年から2019年にかけて多くのM&Aを実施したことにより、グループとしての一体感に欠けるところがありました。そのような状態のなか、求心力を取り戻すため、2020年7月に新たな経営の基本方針の中核となる「MVVSS(Mission、Vision、Value、Spirit、Slogan)」を定め、マクセルがどこに向かうのかを明確にしました。
このMVVSSの浸透に向けて、私は、グループ会社を含めた国内の主要拠点を訪問し、社員と直接対話するタウンホールミーティングを実施してきました。MVVSSの制定から4年が経過し、マクセルグループ社員への浸透・共有が進んでいると手応えを感じています。
組織体制は、縦割りだったものを全社で横ぐしを通した組織へと変革してきました。2022年度から2023年度にかけては、事業本部ごとに分かれていた人事総務、経理、調達SCMの各部門を本社に集約しました。生産活動においても、部材が急に不足したときにはグループ内の工場間で融通するなど連携を強化しています。また、モノづくり本部には、各工場のメンバーが兼任で入り、モノづくりの考え方の共有、開発・製造プロセスの共通化の検討などを進めています。新中期経営計画MEX26 (Maximum Excellence 2026) の策定にあたっては、各事業本部から主要メンバーが集まる場を設定し、事業本部の垣根を超えた活発な議論をすることができました。
このような取り組みを通じて、社員が一体感を持ち、部門や役割を超えて困難な課題にも挑戦し、チームの力で前進する会社にしていきたいと考えています。
前中期経営計画MEX23の振り返り
前中期経営計画MEX23 (Maximum Excellence 2023) の最終年度の2023年度の業績は、前年度から減収・増益となり、MEX23の当初計画値比では売上高は上回りましたが、営業利益は未達となりました。コロナ禍で見込んでいた民生用リチウムイオン電池のゲーム機向け販売、オゾン除菌消臭器の販売が計画を下回ったことや、注力分野においてお客様の技術課題を捉えきれず、十分な成長につなげられなかったことが主な要因です。
一方で、MEX23の初年度である2021年度に各事業本部にあった開発部隊を統合し、成長が見込まれる案件にリソースを集中したことにより開発が加速しました。今後の業績への貢献が見込まれる多くの製品がでてきたことは、大きな成果です。
特に全固体電池は、マクセルの次の時代の柱として大きな期待を持っています。私は20年以上前に、一次電池でタイヤ空気圧監視システム (TPMS*) に使われる電池の開発に携わり、その際、上司からは、タイヤの中に電池を入れて10年間回すことはできないので別の開発をするように言われましたが、お客様からの要望に応えたいという強い思いで開発を続けた経験があります。ただ全固体電池は、液体を使わない、これまでの電池と全く異なるもので非常に技術的なハードルが高いことから、リソースを一気に投じても成果を出すことは難しいと考え、じっくり取り組むように指示しました。しかし、開発に携わった社員の頑張りにより想定を超えて開発が加速し、よくここまできたと驚いています。現在のスマートフォンの電池は数年すると劣化してきますが、寿命が長い全固体電池になれば、そのようなことはなくなります。全固体電池で、さまざまなイノベーションを実現していきたいと考えています。 *TPMS: Tire Pressure Monitoring System


MEX26では成長分野に積極投資
マクセルは、2024年度から、新中期経営計画MEX26をスタートしました。2026年度に売上高1,500億円、営業利益120億円の達成をめざし、成長事業への積極投資、事業ポートフォリオ改革を進めていきます。成長投資は、MEX26の3年間において、MEX23期間の2倍超となる350億円を見込み、注力3分野「モビリティ」「ICT/AI」「人/社会インフラ」における成長事業を中心に実施していきます。
「モビリティ」分野では、TPMSモジュールの小型化需要に対応した耐熱コイン形リチウム電池の供給拡大を図るため、生産体制強化に向けた投資を実施します。
「ICT/AI」分野では、FAや各種センサー用途のセラミックパッケージ型全固体電池の拡販を進めています。さらに、全固体電池の小型セルのモジュール化、中型セルの開発に注力していきます。また、半導体市場の拡大に伴い成長が見込まれる半導体DMS*や半導体製造工程用のダイシングテープについても、投資を進めています。 *DMS: Design & Manufacturing Service
「人/社会インフラ」分野では、血糖値計などの医療機器向けで一次電池の市場が拡大することが見込まれ、開発・増産投資を進めていきます。また、建築・建材用テープについては、さまざまな住環境に対応した製品の拡充に向けた投資を進め、北米や東南アジアでの販売拡大を図ります。
全固体電池に続く新事業の創出に向けた活動にも注力していきます。「製品化済の事業化ステージ」「MEX26期間中の製品化に向けて製品開発を進める顧客実証ステージ」「2027から2029年度の製品化に向けてビジネス開発を進める価値検証ステージ」の各フェーズにおいて活動を推進していきます。MEX26の期間においては、コイン形全固体電池、中型全固体電池、全固体電池モジュール、発泡成形、EMC*対策部材などの製品化をめざします。 *Electromagnetic Compatibility:電磁両立性
事業ポートフォリオ改革については、注力3分野での成長を図るとともに、事業の縮小・撤退を含め、メリハリのあるリソースの再配分を実施していきます。これまでABC-XYZオペレーション(事業別損益管理)を継続して行ってきたことにより、定量的な評価軸での判断が浸透しています。厳しい事業に関わっている社員が目の色を変えて取り組み、業績が改善した製品分野もあり、全社で利益の積み上げを図っていきます。


「なくてはならない」存在となるために
マクセルは、お客様から「なくてはならない」存在となることをめざしています。そのためには、当社の製品・技術の価値を十分に活かせることが重要であり、それは、お客様が求める仕様や条件に応じて技術的なすり合わせをしなければ製品本来の性能が発揮されない領域であると考えています。例えば、電池は同じ規格でも、他メーカーのものと性能が異なり、お客様が使われる機器と条件を含めてすり合わせることが重要となりますし、車載用光学レンズもお客様が求める特性を出すには設計をすり合わせる必要があります。
特に、モビリティ、医療、産業分野は安心・安全に直結していることから、綿密なすり合わせが必要であり、当社の価値を認めていただきやすい分野であると考えています。このような分野で、お客様の課題や要望に対し、高いレベルで技術をすり合わせる技術営業力と、当社独自のアナログコア技術によるモノづくり力により、最適なソリューションを提供していきます。
技術営業においては、エンジニアがお客様を訪問し、課題に直接触れて、開発に反映することが重要です。営業部門には、工場や研究所のエンジニアと同行して訪問するように伝えています。また、製品ごとに担当するエンジニアの部署を決め、定期的に海外のお客様を訪問する仕組みを運用しています。また、最適なソリューションの提供に向けては、営業が自部門の製品だけでなく、他部門の製品も幅広く提案し、異なる領域のお客様と接することで、さまざまな課題を捉えることが重要であり、事業本部の枠を超えた融合を進めていきます。
サステナビリティ経営の強化に向けて、アクションを着実に実行
マクセルは、サステナビリティ経営の強化に向けて2021年度に7つのマテリアリティを特定し、2022年度にKPIを策定、2023年度からマテリアリティの達成に向けて事業活動への実装を開始しました。MEX26では、持続的な成長に向けて、経済価値と社会価値の両立を見据え、各マテリアリティにおけるアクションプランを着実に実行していきます。そのために今回マクセルがめざすゴールとしてKGIを設定し、このゴールをめざすパフォーマンス指標としてのKPIを再設定しました。
MEX23の期間においては、2021年度から気候変動対策のシナリオ分析(リスクと機会の析出)をマクセル株式会社を対象に開始、その後グループ会社へと展開してきました。2023年7月には環境ビジョンを制定するとともに、2030年度目標として循環型社会に向けた廃棄物削減と複合プラスチックのリサイクル開始、2050年度目標としてカーボンニュートラルの達成を掲げました。
また、マクセル製品や事業活動による社会への貢献を重視し、マテリアリティのひとつである「環境活動による経済価値の創出」を推進しました。事業活動における環境負荷低減の取り組み例としては、製造工程の見直しや、生産設備の駆動に多く使われる空気を可視化し、空気漏れを防ぐことにより、電動力費とCO2の削減を図りました。独創技術による環境に配慮した製品開発の例としては、2023年4月より、NEDOの「電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」プロジェクトにおいて、CO2電解還元時に使用する「電解リアクター」の開発を大阪大学と共同で進めています。
MEX26では、もうひとつのサステナビリティに関する主な取り組みである「価値を生み出す人・組織づくり」も重視し、「多様な人財の獲得」「適性を見極めた人財の配置」「社員の経営参画意識の向上」「挑戦を認める風土の醸成」「働きがいのある職場環境の整備」「持続的な人財育成」をテーマに人的資本を強化していきます。また、KPIのひとつに従業員意識調査のスコアを掲げ、高い目標値を設けています。社員が高いモチベーションを持ち、最大の力を発揮できるように、機能別教育の強化、課長職以上を対象とした株式報酬制度の導入などを実施しています。DXについても、ワンマクセルに向けたグループガバナンスの一環として、システムを一元化し情報の集約と活用を一層推進していきます。
ステークホルダーの皆様へ
当社は2019年度に損失を計上し、2020年度に退路を断って構造改革を実行し、2021年度からの3年間は、2030年度にありたき姿に向けた第1フェーズであるMEX23において、将来への「種まき」を進めてきました。全固体電池など、次の大きな柱になる可能性がある複数の事業が育ったことにより、成長シナリオは固まってきました。
MEX26では、既存事業にメリハリをつけ、成長事業の仕込み、事業基盤の整備を加速します。その中で、自分たちだけでは成長しきれない部分については、M&Aも選択肢に入れて検討を進めます。
当社のPBRは、現在1.0倍を下回っていますが、MEX26の目標に向けて着実にステップアップし、収益性、資本効率を向上することで、PBR1.0倍超を必ず実現していきます。そしてMEX26を完遂した後、2027年度以降には、全固体電池をはじめとする新事業を本格的に立ち上げ、成長を加速するとともに、社会課題の解決、持続可能な社会に大きな貢献を果たしていきたいと考えています。
マクセルグループのこれからにご期待いただき、引き続き、ご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

2024年9月
代表取締役 取締役社長
中村 啓次
サステナビリティ経営の推進
マテリアリティ
独創技術によるイノベーション創出 |
成長事業を通じた社会課題の解決 |
価値を生み出す人・組織づくり |
顧客価値の最大化 |
環境活動による経済価値の創出 |
事業ポートフォリオ経営の強化 |
グループガバナンスの強化 |
環境ビジョンを制定し、カーボンニュートラルを宣言
環境ビジョン
マクセルは、イノベーションの追求を通じて"脱炭素社会"と"循環型社会"の達成をめざし、誰もが安心して暮らせる持続可能な社会の実現に貢献します。 |
目標
脱炭素社会の達成に向けた取り組み 2030年度(国内):CO2排出量削減率 50%以上(2013年度比) 2050年度(グローバル):カーボンニュートラルの達成 循環型社会の達成に向けた取り組み 2030年度(グローバル): ・廃棄物生産高原単位0.0450トン/百万円以下(2021年度比19%削減) ・複合プラスチック廃棄物のケミカル、マテリアルリサイクル開始 |