座談会 宇宙機ミッションを支える全固体電池
─JAXAとの共同研究で過酷な宇宙環境に挑む

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門  第一研究ユニット  主任研究開発員 山田 知佐 様 / 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門  第一研究ユニット  研究領域主幹 川瀬 誠 様 / 営業統括本部 マーケティング部 担当部長 上剃 春樹 / 新事業統括本部 設計部 第1課谷口 聖太

2026年、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)のJAXA宇宙技術実証加速プログラム(JAXA-STEPS*)に、マクセルが提案した「宇宙機ミッションを最大化する高耐熱全固体電池の開発実証」が選定されました。マクセルとJAXAは共同研究を開始し、過酷な宇宙環境で、全固体電池による小型衛星の機体全体の軽量化と設計自由度の向上をめざします。小さな電池が、宇宙機全体の設計と運用に大きなインパクトを与える──まさに「Micro batteries. Maximum impact.」を体現する協業が始まっています。

*官民にとって必要な将来のミッション・技術を、小型衛星を活用してクイックかつタイムリーに実証することで、研究開発の加速を図るプログラム。初回である2025年度公募では24件の提案から7件が選定され、マクセルは「FSフェーズ/小型化・モジュール化関連技術」カテゴリーで選定された。
JAXA×Maxell

制約があるなかでこそ活きる全固体電池。宇宙での使用をめざしてプロジェクトがスタート

営業統括本部 マーケティング部 担当部長 上剃 春樹

上剃全固体電池の市場拡大に取り組むなかで、温度やメンテナンスなどの制約があるところでこそ全固体電池の性能が活きると考え、最も過酷な環境である宇宙に着目し2025年8月に川瀬さんのチームにプレゼンさせていただいたのが始まりでした。

山田マクセルさんの強い熱意を感じましたね。宇宙というと尻込みされるメーカーが多いなか、本当にありがたい話だなと思いました。

川瀬私たちも10年程前から、広い温度範囲で使え、安全性が高いという全固体電池の特長が宇宙に活かせると考え、複数のメーカーからサンプルをいただき評価していました。

上剃その後、ちょうど2025年に「JAXA-STEPS」が新設され、全固体電池で応募する運びとなりました。

川瀬「JAXA-STEPS」は官民の連携をよりスピーディーに進めていくためのプログラムです。マクセルのプロジェクトが採択された要因はすでに全固体電池の量産実績があったからではないでしょうか。

山田選定後のシンポジウムで上剃さんが「全固体電池は市場に合うように特性を尖らせることができ、今までできなかったような使い方ができる」という説明をされていたのを聞き、宇宙に特化した電池ができるとワクワクしました。

上剃全固体電池は「使える温度範囲を広げる」「難燃性を高める」などお客様の求める特性にフォーカスして開発できます。今回開発する電池で、宇宙でどれくらいの価値が出せるか楽しみです。

新事業統括本部 設計部 第1課谷口 聖太

谷口今回のプロジェクトの大きなミッションは、宇宙で主電源として使える大型全固体電池を開発することです。求められる特性としては、高エネルギー密度、耐熱性、低温特性などがあります。まずは電池材料の選定、調達、評価を行い、最適な材料を探索しています。宇宙向けの電池にはどのような要件や設計が必要か、まだ明確でない部分もあるため、本プロジェクトでJAXAさんから設計指針についてアドバイスをいただきながら、放射線など宇宙特有の環境評価についても連携して進めることができます。

新事業統括本部 設計部 第1課谷口 聖太

川瀬マクセルさんにはその技術力を遺憾なく発揮していただき、私たちは電池に対する要望を出したり、これまでの経験・知見をフィードバックしたりしています。

「お屋敷暮らし」からサバイバルできる電池へ―2029年の宇宙実証をめざす

人工衛星(イメージ)

山田現在、人工衛星の電池は20℃±10℃程に保った箱のなかで、大事に管理されています。温度を保つための専用の道具が必要で、電力消費も大きくなります。こうした「お屋敷暮らし」が不要で、厳しい環境でもサバイバルできる電池が実現すれば、温度管理の道具が簡素になり、熱に関わる設計工数も減らすことができます。これは軽量化にも直結します。宇宙へ運ぶコストは1kg当たり100万円、月まで運ぶなら1億円といわれています。電池や道具は軽ければ軽い程良く、全固体電池なら宇宙機全体の大幅な軽量化につながります。

人工衛星(イメージ)

上剃現状、20℃±10℃の温度範囲を3倍の範囲で使えるように取り組んでおり、さらに全固体電池の特長である本質的な安全性は保つようにしていきます。

川瀬そのようになれば、人工衛星の設計自体の自由度もかなり上がります。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 第一研究ユニット 主任研究開発員 山田 知佐 様

山田将来的には私たちの熱設計の仕事がなくなってしまうかもしれませんね(笑)。あとは、宇宙に行ってしまうと修理・交換ができないので、メンテナンスフリーであることも重要です。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 第一研究ユニット 主任研究開発員 山田 知佐 様

川瀬打ち上げ前の地上での管理も、常用温度範囲が広いと扱いやすくなりますね。「JAXA-STEPS」の枠組みとしては、電池開発と提供価値のフィージビリティスタディを1年間行い、実現できそうであれば、その後2年程で宇宙実証のステージが待っています。

上剃はい、1年目で技術検証を行い、「JAXA-STEPS」のフェーズアップを経て2~3年目で電池の容量を大きくしていきたいと考えています。

谷口マクセルが使っている材料は安全性が非常に高く、宇宙環境に向いていると思います。一方で、リチウムイオン電池に比べエネルギー密度はまだ十分ではないため、重量当たりのエネルギー密度を高めるには材料の見直しが必要です。材料を変えると耐熱性が下がるといったトレードオフもあるなかで、耐熱性とエネルギー密度の両立を図りながら、大容量化を進めていきます。

時代の2、3歩先を行き、宇宙、そして地球上の極限環境で使える電池へ

川瀬マクセルさんのマクセル テクノロジーギャラリーに行った際、前身の日東電工時代の1958年にポータブル型のカセットテープの録音再生機(ジェムフォン)を発売されていたのを知り、時代の1歩どころか2、3歩先を行っているのがマクセルさんの社風なんだと感銘を受けました。全固体電池も先頭を走っているイメージがあります。

山田マクセルの皆さんは、まさに尖った電池を開発している人たちと感じさせる個性をお持ちで、モチベーションが高く、楽しくコミュニケーションできています。

上剃お互いに、いいたいことは率直に話すことができていますね。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 第一研究ユニット 研究領域主幹 川瀬 誠 様

川瀬この電池ができた暁には、宇宙用途で使える電池といった特徴を活かし、地球上の極限環境でも使える電池になることを期待しています。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門 第一研究ユニット 研究領域主幹 川瀬 誠 様

山田私は3月にカナダへ行ったのですが、雪が降るマイナス20℃のなかでは電気自動車は走っていませんでした。そのような環境でも使える電池が実現すれば、用途はもっと広がりそうですね。

上剃宇宙は夢がある領域であるため、マクセル社員のモチベーションが上がっていると感じています。今回の「JAXA-STEPS」をきっかけとして、マクセルは宇宙産業に参入する意思を示したと思っています。今後、伸びていく宇宙産業に対して電池以外のマクセル技術でも貢献していけると嬉しいです。さらに、宇宙で確立した技術を地上の極限環境にも展開し、新たな事業機会につなげていきたいです。

谷口今回の共同研究ではサプライヤーの皆様の協力も非常に重要です。連携を通じて関係が強化され、技術者としてのレベルアップにもつながっています。開発過程では難しい局面もあり、落ち込むこともあるのですが、JAXAの皆さんはたいへんな場面を経験されても常に前向きです。そうした姿勢を見習いながら、プロジェクトを成功させたいですね。