社長メッセージ
MEX26の目標達成、
中長期的な成長に向けて
グループ一体で変革を続けます
代表取締役 取締役社長
中村 啓次
■MVVSSの浸透を元に、グループ一体で全体最適を追求する風土へ
2020年7月、私が社長に就任した直後に経営の基本方針の中核となる「MVVSS (Mission、Vision、Value、Spirit、Slogan)」を定め、マクセルが進むべき道を明確にしました。以来MVVSSの浸透を図るために、グループ会社を含めた国内の主要拠点を訪問して、社員と直接対話するタウンホールミーティングを実施し、継続しています。2023年度までは主に若手社員と対話をしてきましたが、2024年度は10カ所以上の拠点で管理職の社員を中心に実施し、新たにスタートした中期経営計画MEX26 (Maximum Excellence 2026) の狙いや取り組みについても話しました。いずれの拠点でも多くの質問があり、アナログコア技術を活かしたモノづくりによってお客様に価値を提供するということについて深く議論できました。
MVVSS制定から5年、その浸透が進み、横ぐしを通した組織への変革を通じて部門を越えた交流や情報共有が増え、グループの一体感の醸成に手応えを感じる一方で、業績の追求についてはまだ事業本部やグループ会社単位の部分最適で考えがちです。海外拠点を含め、グループ一体となって全体最適を追求する風土に変えていきたいと考えています。
■MEX26初年度の振り返り
MEX26では最終年度となる2026年度に売上高1,500億円、営業利益120億円、ROE10%の達成をめざしています。
初年度の2024年度の売上高は1,298億円、営業利益は93億円となり、いずれも期初予想を上回りました。大きな要因は増産投資を行ってきた一次電池において、車載用、医療機器用の販売が拡大し、加えて円安も追い風となったことです。
一方で、前中期経営計画MEX23から推進しているポートフォリオ改革のもと、角形リチウムイオン電池については、市場のラミネート形への転換により今後の事業拡大、収益性の改善が見込めないと判断し、生産を終了しました。本生産終了に伴い営業費用及び特別損失を計上したことにより、親会社株主に帰属する当期純利益は41億円と期初予想を下回り、ROEが4.4%に低下しましたが、今後のマクセルの企業価値向上にとって必要な対応でした。
MEX26の2年目となる2025年度は、売上高1,365億円、営業利益100億円を必ず達成し、最終年度の目標に向けて着実にステップアップします。

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アクションプラン |
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■MEX26の目標達成に向けて
成長事業への積極投資と事業ポートフォリオ改革を推進
2026年度目標の達成に向けては、成長事業への積極投資と、事業ポートフォリオ改革に注力しています。
成長投資については、MEX26の3年間で約350億円を計画しており、特に一次電池は、自動車や医療機器向けの需要が中長期的に増加する見通しで、販売拡大に向けて積極的な投資を実施し、生産体制を大きく強化します。また、注力3分野での成長では、「モビリティ」分野において、TPMSモジュールの小型化需要に対応した耐熱コイン形リチウム電池の供給拡大に向けた増産投資を実施し、さらに、xEV需要の増加に伴う引き合いに対応するため、塗布型セパレータ増産のための設備も導入しました。「ICT/AI」分野では、半導体製造装置の増加に伴う半導体DMSの需要増に対応するための増産投資を進めており、「人/社会インフラ」分野では、北米や中国で需要が増加している血糖値計などの医療機器用一次電池の開発・増産投資を進めています。また、建築・建材用テープについても、グローバルにおける需要の取り込みに向けて増産投資を進め、北米や東南アジアでの販売拡大を図ります。
事業ポートフォリオ改革については、注力3分野での成長を図る
一方で、成長性・収益性の低い事業の縮小・撤退を進め、メリハリを付けたリソースの再配分を実施しています。先に述べたように、収益性に課題のあった角形リチウムイオン電池の生産を終了する一方で、当社の技術を発揮できる小型一次電池については株式会社村田製作所様からの事業譲受を決めました。譲受にあたってのクリアランス整理を経てクロージングは2025年度内を予定しています。村田製作所様には、当事業の発展にあたってはマクセルがベストオーナーとご判断いただきましたので、マクセルグループの総力を挙げて小型一次電池事業の発展を確かなものにしたいと思っています。電池の場合、規格は同じ電池であっても使う材料や設計思想、設備思想はまったく異なりますので、お互いの良い部分を取り入れながら、製品開発にシナジーが生まれることを期待しています。

新事業の立ち上げに向けてイノベーションを加速
全固体電池が2024年度下期に本格的な量産フェーズへ移行できました。足元では産業機器・小型デバイス向けに用途拡大を図っており、2024年度は画像認識ユニットへの採用、産業機器のバックアップ用モジュールの開発、調理用無線温度デバイスへの搭載、医療機器の洗浄プロセスを監視するデータロガーへの採用など成果が得られました。
全固体電池はもともと事業部内の少人数で開発を進めていましたが、2021年度に各事業本部の開発部隊を統合した新事業統括本部を立ち上げ、リソースを集中しました。当初は3年で量産フェーズに移行できるとは予想しておらず、組織力強化によって開発を加速できたことで今後の新製品開発につながる大きな手応えを感じています。全固体電池の強みのひとつは広い温度範囲で使えることで、特に高温の環境下で使用したいというニーズが大きいのですが、電池単体での提案ではお客様の性能評価に時間を要しますので、短期間で評価いただけるように、お客様の使用方法に合ったサンプルを作成して提案するようにアプローチを変更しました。サンプル出荷を通じて市場で実績を積み重ねながら、産業ロボットのエンコーダーや医療機器など幅広い用途を開拓し、次期中期経営計画での本格的な収益貢献に向けて、着実に販売・生産を拡大していきます。
実は私は、カセットテープやビデオテープに憧れてマクセルに入社しましたが、同期の40名のうち私を含め2名だけが電池部門に配属されました。今となっては電池部門に配属されてよかったと思いますが、当時は落胆し、先輩から「電池はエネルギー産業で、絶対になくならない」と励まされ、開発に取り組みました。電池は、電圧と電流しか機能がありませんが、温度や湿度、寿命、サイズなど用途に見合った条件を変えることで新たな価値を生み出せます。マクセルの祖業である電池で新たなイノベーションを実現していきます。
電池以外の製品分野も新事業統括本部で開発を推進しています。例を挙げると、電波を吸収するEMC* 対策部材は磁気テープで使用する磁性粉を活用した製品であり、主に自動車関連での用途が見込まれ、販売拡大に取り組んでいます。また、開発を進めている低圧発泡成形技術(RIC-FOAM)は、これまで発泡成形が難しかったエンプラやスーパーエンプラの発泡を実現し、部品の軽量化、金属部品のプラスチック化、そして環境負荷の軽減に貢献するものです。引き続き、事業化に向けて取り組みを着実に進めていきます。
*EMC:Electromagnetic Compatibility(電磁環境両立性)
お客様との技術接点を増やすキャラバン活動に注力
すべての分野でお客様の課題や要望に対し、高いレベルで技術をすり合わせる技術営業力と、当社独自のアナログコア技術によるモノづくり力によって最適なソリューションを提供することに注力しています。特にモビリティや社会インフラ、医療、産業分野は高い安全性が求められることから、綿密なすり合わせが必要であり、それだけに当社の価値を認めていただきやすい分野です。お客様との技術接点を増やすため、技術者も同行するキャラバン活動を強化しており、2024年度における活動件数は前年の3倍になりました。
私も技術者として経験しましたが、お客様を訪問すると、非常にハードルの高いテーマが投げかけられます。それに対し「こうすればできるのではないか」「条件をこのように変えてはどうか」といった提案をしていくことで道が拓けることも多くありました。できないと言わず、お客様とコミュニケーションを取り、議論することが大事であり、粘り強いアプローチを徹底していきます。
■人的資本、組織力の強化に向けて
人的資本の強化に向けて人財の育成・採用、組織力の強化に注力しています。人財育成においては、経営戦略に連動した教育プログラムの強化と、業務時間を割いて研修を受けることへの周りの理解・協力が得られる風土の醸成に向けて取り組んでいます。また、採用については、人事部にキャリア採用の経験者を加え、優秀な人財の獲得を強化しています。また、海外における現地採用でもマーケットにコネクションを持つ人財の採用を進めています。
組織力強化については、2021年度に各事業本部にあった開発部隊を統合して新事業統括本部を、BtoB系の各事業本部の営業部隊を統合して営業統括本部を新設し、全社横ぐしを通した組織へと変革し取り組みは強化されましたが、その効果が営業成績に現れるまでには至っていません。顧客開拓や技術要素を伴う新製品の立ち上げには時間を要するため、顧客接点件数や開拓案件数、将来の売上見通しなどによって進捗を管理しながら、全社横断組織のもと成長戦略を加速させていきます。
■社会課題を解決する製品で世の中へ価値を提供
当社のお客様はみな社会課題の解決に向き合っておられるので、我々もそれに沿う形で最適な製品を提供しています。モビリティ分野ではグリーン化、EV化で電池に用いられる塗布型セパレータ、自動運転で悪天候でも機能する超音波クリーニングレンズユニットなど、製品を通じてお客様の社会課題解決に貢献しています。医療分野でも先に述べたように血糖値計向け一次電池のニーズが高まっています。血糖値が上がった時すぐに手当てできないと重篤な状態に陥る場合があるため、モニター電源は人命に直結する製品であり、高い安全性とエネルギー密度を両立した当社の製品が評価されています。また、メンテナンスフリーを実現する全固体電池の社会へのインパクトも少なくありません。
このような製品の強みをお客様にしっかりご理解いただければ、
社会にも貢献でき、利益も拡大していけると考えています。
MEX26は、前中期経営計画の反省を踏まえ、議論を重ね、定量目標の達成に向けた施策を策定しました。計画初年度の2024年度は、事業ポートフォリオ改革に伴う損失を計上したものの、既存事業の収益のボラティリティを抑えることにより、営業利益を増加できました。
2025年度は、計画最終年度につながる重要な年です。米国の相互関税影響によるグローバルの景気減速が懸念されますが、これまでに準備してきたことを着実に実行し、営業利益目標100億円を必ず達成できるようにベストを尽くしてまいります。
マクセルグループの今後の成長にご期待いただき、引き続き、
ご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

2025年9月
代表取締役 取締役社長
中村 啓次






